さらに漢方医学の考えを深く見てみよう。

前回、葛根湯の説明をした時に太陽病等の病期に関する記載をしていなかったことに気づいたので、病期について説明します。

漢方医学では、病期は「陽」から「陰」の症状へ進み、悪化するとされています。陽の症状と陰の症状は、それぞれ3つの病期に分類できます。病気は徐々に陽証から陰証へ、表証から裏証へ、熱証から寒証へ、実証から虚証へ進むとされています。病期の移動により「証」の変更が起こったとし、使用する方剤も変更されます。

具体的には、陽期は太陽病・少陽病・陽明病、陰期は大陰病・少陰病・蕨陰病に分類されます。

太陽病は「上」と「表」(頭頂から背中、脊柱、腰、踵)に症状がでます。病邪がからだの表在組織や身体上部に停滞するため、浮脈、頭痛、悪寒、発熱、項背部痛等がみられます。

少陽病は「半表半裏」(両耳の前後から、脇下、季肋、脇腹、足部)に症状がでます。病邪が太陽の表部を過ぎてやや内方に侵入したものの、未だ裏位には達していない状態で往来寒熱、肋骨弓下の張った痛み、口苦、口乾、はき気、食欲不振等がみられます。陽明病は「下」と「裏」(眼から下唇、心、胸、腹、髄、股、膝、脛、跗、指頭)に症状がでます。熱が裏と下部(陽明部位)にある状態で、腹満、便秘、口渇、身体深部の熱感等胃腸に関連する症状がでます。

太陰病は、太陽病から陽明病の段階で治癒せず、生体に疲弊が生じたものと考えられています。気虚血虚により腹痛、下痢、腹の冷え、食欲不振等がみられます。

少陰病は、気虚血虚の状態がさらに進行し、臓腑の機能も衰えた状態で、全体倦怠感や四肢の冷え、下痢、脈の微弱等がみられます。

厥陰病は、臓腑機能がさらに衰え、重篤な病状に陥った状態で、意識レベルの低下や、体温調節障害等がみられます。

同じ病期にあるものでも熱寒実虚を区別しなければ治療に直結せず、八綱分類と常に組合わせて考えられます。

風邪に葛根湯

葛根湯をご存知でしょうか。葛根湯は、数ある漢方処方の中で有名な処方のひとつで、
風邪薬として大変有名であります。これほど多く用いられ、切れ味もよい薬ですが、風邪をひいたからといって必ずしも、葛根湯が効くというわけではありません。本来の治療効果を挙げるためには、その正しい使い方をしる必要があります。

葛根湯ですが、中国の古典「傷寒論」の太陽病の項目の中に記されています。傷寒論における太陽病とは、風邪等の発熱性疾患初期で、頭痛、うなじの強張り、悪寒、脈浮などの徴候がある状態です。

まず葛根湯の「証」は、表実(ひょうじつ)でその実が項背部の緊張として現れるか、或いは体表部の限局性緊張として現れるかであり、熱を伴う場合と、そうでない場合とがあります。これは体力があり、病気のかかりはじめ等を示しています。

葛根湯の構成は、葛根(かっこん)・麻黄(まおう)・桂枝(けいし)・生姜(しょうきょう)・甘草(かんぞう)・芍薬(しゃくやく)・大棗(たいそう)です。

葛根湯の主薬は方名のように「葛根」であります。葛根は、血滞による筋攣縮を寛解し、「麻黄」と「桂枝」と組んで表を発します。それ以外の生薬は葛根・麻黄・桂枝の補助薬で、生姜は表の気をめぐらせ、甘草は諸薬を調和させる。芍薬は葛根とともに血を順らし、筋肉の攣縮をやわらげ、大棗は上部を和し、かつ潤します。

特に葛根湯は、うなじの強張り、痛みを治療標的として投与します。

 

難しい

五行。それは世界

次に、体を構成する概念について考えてみたいと思います。漢方医学では古代中国の概念である五行論に基づき、人体の構造を定義しています。

五行論は、万物を木・火・土・金・水の5つの要素に分類し、それらの関係を定義した理論です。漢方医学では、この五行論を人体の生理・病理に当てはめて応用してきました。具体的には、人体の働きを木・火・土・金・水に対応させて、5つに分けました。これを「五臓」「五腑」といいます。

五臓は肝(木)・心(火)・脾(土)・肺(金)・腎(水)で表されており、人体の機能の中心とされています。五腑の胆(木)・小腸(火)・胃(土)・大腸(金)・膀胱(水)は五臓の働きを補佐する器官と位置付けられています。

 この5つは、お互いに支配したりされたりして絶妙のバランスを保っています。その中でも代表的な関係が「相生」と「相克」です。

「相生」とは相手を生み育てる母子関係で、五行では木→火→土→金→水という流れを持ちます。木が燃えて火がおき、火からできる灰が土を肥やし、土が鉱脈(金)を蓄え、鉱脈に磨かれ水が湧き出て、その水が木を育むという具合です。

「相克」とは相手を抑制する関係です。それは、「相生」の流れにおいて一つ飛ばした木→土→水→火→金という順に関係しています。木(の根が)土をえぐり、土が水をせき止め、水が火を消し、火が金を溶かし、金(属でできた刃物)が木を切り倒すという具合です。

五臓五腑が相生および相剋の関係性でお互いに影響を及ぼし合っています。病気になると、相生及び相克のバランスが崩れます。漢方医学では、働きの弱まったものは相生関係で賦活化し、強すぎるものは相克関係でバランスをとります。

気血水をもう一度

「気・血・水」の 3 要素でとらえる方法に気血水弁証論があります。気・血・水は体を支えるエネルギー等を司っています。これは、人の体の細胞レベルの生命現象を捉えていると考えていても良いかもしれません。快適な日常生活を送るには気・血・水がスムーズに動き、めぐっていることが重要です。気・血・水のバランスが崩れると、ゆがみが生じます。気・血・水についてくわしくみていきましょう。

「気」とは体内の目に見えないエネルギーを表現したもので、心理的な側面や神経系を捉えていると考えても良いかもしれません。気の異常には「気虚」、「気滞」、「気逆」があります。

気虚」は「気」の産生が低下した状態であり、だるい、気力がない、疲れやすい、声や眼に力がないなどの症状を表わします。「気滞」は「気」が滞った状態で、抑うつ、喉のつかえ感、胸のつまった感じ、腹部膨満感などの症状を表わします。「気逆」は「気」が発作性に逆行したものであり、冷え、のぼせ、発作性の頭痛,動悸などの症状を表わします。
「血」は色のついた水を表現したもので、「気」によって高次の制御を受けています。血液を捉えていると考えてもよいかもしれません。血の異常には「血虚」、「瘀血」があります。「血虚」は血が滞り不足した状態で、顔色の悪さ、皮膚の乾燥・荒れ、頭髪の抜けやすさ、眼精疲労、こむらがえりなどの症状を表わします。「瘀血」は、血がうっ滞した状態で、口乾、色素沈着、眼の周りの隈、月経異常,腰痛などの症状を表わします。
「水」は血以外の透明な液体で「津液(しんえき)」ともいい、リンパを捉えていると考えても良いかもしれません。水の異常には、「水毒」があります。むくみ、尿量減少、拍動性の頭痛、頭重感、気圧や天候に左右されるめまい、耳鳴り、心下振水音(胃部のポチャポチャ音)などの症状を表わします。

これらの症状に対し漢方薬の服用や鍼灸治療によって、ゆがみを改善していきます。

ほかにも弁証論がありますので、引き続き取り上げていきます。

 

データは定期的にアップデートしていこう。

弁証

 四診によって収集された情報を基にして、「証」を決定し、治療方法を決定します。証の分類を弁証といいます。四進による弁証は、八綱弁証、病因弁証、気血水(津)弁証、臓腑弁証などの弁証法に加え、病位、病因、病性、邪気、正気等を加味して行われます。中でも、その基礎をなすのが八綱弁証です。陰・陽・表・裏・寒・熱・虚・実を指し、これらにより人体の正気の強弱、病変部位の深浅、病邪の盛衰などを総合的に分析します.「弁証」から適応する治療方法を決定することを「論治」、または「施治」といいます。

 漢方医学を特徴づけるものは「気の思想」と「陰陽論」であり、漢方医学の病態把握には重要です。様々な事象の中には陰と陽の二面性があり、その間には不即不離の相互関係が存在します。

 生体の闘病反応にも陰陽の 2 型があります。生体の恒常性が崩れ、体力が弱り病毒の力が強くなっている時期で、生体の修復反応の性質が寒性、非活動性、沈降性の病態を「陰証」といいます。一方、体力が病毒の力を上回っている時期で、熱性、活動性、発揚性の病態を「陽証」といいます。この陰陽二元論の概念から、「虚実」「表裏」「寒熱」などの二元的病態把握法が存在します。

「虚証」は精気が衰え、病邪に対する生体の防御反応が衰えた体質をいい、「実証」は病邪に抵抗する体力がある体質をいいます。

「寒熱」とは急性疾患の罹患した時の温度感覚等自覚症状の表現です。「寒証」は新陳代謝の低下した状態で防御機能が低下し、自覚症状として冷えを感じる状態です。「熱証」は感染症による発熱や炎症が起こり、熱感を感じる状態です。

 

表現がややこしいので書き直したい。あすは更新できないですな。

 現代の医学のように「高血圧症」「狭心症」というように、病気を診断した上で、病気に合わせた治療が行われています。しかし、漢方医学では病気を診断して治療するのではなく、患者の体力や体質、自覚症状、客観的な症状をまとめて整理された「証」に合わせた治療が行われます。

 この証を決めるには、顔色や肌の状態、体の肉付き等をみる望診、体臭や声や呼吸の音等を診る聞診、自覚症状を聞く問診、体に触れ脈やお腹の動きを診る切診の四診から決定することができます。

 証を決める際の指標となるのが、「陰・陽(いんよう)」「虚・実(きょじつ)」「表・裏(ひょうり)」「寒・熱(かんねつ)」等の要素です。

 

良く食い、良く出し、よく眠る。基本です。

 今回は、服用する漢方薬はどうのように決まるのでしょうか。
 それには、漢方医学でどのような状態が健康であるかを知る必要があります。
 そもそも「健康」とは?

 日頃から、3食おいしく食事をとることができ、毎日のお通じがスムーズで、普段からよく眠れることです。漢方医学では、健康な状態の考え方の一つとして「体は常にめぐっていること」、「体は常に変化していること」と捉えています。
 まず、人の体は、常に動きめぐっています。人は、歩いたり家事をしたり働いたり、何らかの形で体を動かしています。体を休める時も体の中では、呼吸し、血液が流れ、食べた物を消化します。

 この動かし、めぐらせる要素を、漢方医学では「気(き)」「血(けつ)」「水(すい)」と捉えています。快適な日常生活を送るには「気・血・水」がスムーズに動き、めぐっていることが大切です。

 同時に、体は常に変化しています。髪の毛は伸び、時間の経過とともに抜け、そして新たな髪の毛が生えてきます。昼は元気に活動できるようになり、夜は睡眠をとるために眠くなります。春夏秋冬の季節によっても変化します。加齢により子どもから大人に、そしてやがては老いていきます。昼夜でも体は変化します。

 これらの変化を「陰(いん)」と「陽(よう)」の力関係の変化によると考えます。「陰」とは暗く静かな状態で、「陽」とは明るく活発な状態をいいます。体力が落ち、新陳代謝が下がり、体が冷えている等の状態を「陰」、体力があり、新陳代謝も活発で、体も温かい等の状態を「陽」と捉えます。眠ったり、休んでいる時を「陰」、働いたり体を動かしている時を「陽」と考えてみてください。

 「気・血・水」のめぐりの異常や、「陰・陽」の変化に異常がおこると、体はバランスを失い「ゆがみ」を生じます。その時、体には元に戻す力、つまり自然治癒力が備わっていますから、このゆがみを正常に戻すことで健康でいることができます。

 しかし、このゆがみを元に戻すことができなければ、病気となります。これを「病(やまい)」といいます。その前段階である「ゆがみ」のある状態、「なんとなく疲れる」「なんとなく眠れない」といった状態を「未病(みびょう)」といいます。「未病」の状態は、現代医学では検査結果に異常がない場合があり、「病」とは考えられないこともあります。漢方医学では「未病」も「病」も治療の対象となります。「未病」の段階から適切な治療を行うことで「病」への移行を防ごうという考え方です。

 漢方医学では、その人の状態に合わせた生薬を組み合わせて漢方薬を調剤したり、鍼や灸で体を刺激することで、ゆがみを取り除き、めぐりを整えるという手法をとります。